現在の医療技術はどの程度進化しているのであろうか?とても分かりやすい最新の研究をご紹介したい。
これはドイツのRuhr University BochumのDietmar Fischer教授の研究成果である。脊髄損傷により歩行不可能になっていたマウスが、当研究チームの新しい治療方法により歩行可能になったというのだ。
脊髄損傷:脳からの命令伝達経路の損傷
これまで、スポーツや交通事故等により脊髄損傷が引き起こされると、歩行不能等の状態から回復しないことが多かった。これは脊髄損傷に対しての治療が困難であるためであり、有効な治療法が見つかっていなかったことによる。
そもそも歩行不能等の「身体を自由に動かすことができなくなる」メカニズムは、簡単に言えば以下のようなものだ。そもそも体を動かす命令は人間の脳で生成され、脳から脊髄を介して最終的に動かす対象の筋肉に伝わっていく。信号は神経細胞を単位として、その神経細胞を同士をつなぐ「軸索」をもとに伝達される。大きなショックで脊髄の「軸索」が損傷を受けると、この軸索はもとに戻ることができないため、脳と筋肉の命令伝達経路が遮断され、身体を動かすことができなくなるというわけだ。
研究開発されたのは「hyper-interleukin-6」という神経細胞の再生を刺激するタンパク質だ。このたんぱく質が脳の領域に注入されることにより、必須神経細胞に直接輸送され、そこで放出されていく。これにより、脳内のさまざまな神経細胞と脊髄内のいくつかの運動路の軸索再生を同時に刺激することになった。結果的に治療を受けた歩行不能なマウスは、2〜3週間後に歩き始めることができるようになった。
この研究は、豚や犬、霊長類などの大型の動物への応用が期待されている。最終的には人間への応用も、当然ながら期待されている。
医療の進歩:本当に困った人を助ける
このニュースを見聞きして感じたことは、「この医療技術が人間に応用されたときに、不幸になる人が誰もいないということ」だ。この医療技術は、人間の寿命をむやみやたらに伸ばすこととはレベルが異なっている。この医療技術がもたらすことは歩くことができないという本当に「困っている人」を助けることだ。
昨今はこのように純粋なニーズに立脚する話ばかりではなくなっている。誰かが自分のアイデアの実現やエゴのために実行することが、誰かの幸せを侵害することがある。
だからこそこの「歩行不能な人を歩行可能にする」のような「困っている」を満たすためのニーズに力を注ぐべきだと考えている。そしてこのようなニーズは、適切に開発にエネルギーが投資される限り、(時間はかかるかもしれないが)実現していくはずである。いや、それ以上に実現しなければならないと考えている。
だからこそ私たちは、そのようなニーズを集約して、届けられる可能性のある人のところに届けていく。
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