人工降雪の現在地と仕組み
人工降雨(降雪)という技術をご存知だろうか?その名の通り、人工的に雨(雪)を降らせる技術のことだ。英語ではcloud seedingと呼ばれる。この雨を降らせたい欲求は古くからの日本にもあるようで、「雨ごい」という言葉には聞き覚えのある人が多いのではないだろうか?実際にこの人工降雨の研究は多くの国と地域で実施されている。
実際にこの人工降雨(降雪)を事業としている会社がある。米国アイダホ州のIdaho Powerという会社である。Idaho Powerという会社と米国大気研究センター(NCAR)が協力して、SNOWIE(Seeded and Natural Orographic Wintertime Clouds:The Idaho Experiment)と呼ばれる初めての実験を2017年に開始したそうだ。この実験では、特殊な航空機を使用して、アイダホ州ボイジーの北にあるパイエット盆地の雲にヨウ化銀を注入し、空中および地上のレーダー・積雪計等を使用して雪への影響を測定したという。
人工降雨(降雪)の簡単な仕組みは、以下の通りだ。低温の雨雲の中の過冷却水を雪片に成長させうる「種」を人工的に注入することで、雪片を成長させて人工的に雪を降らせるのだ。
詳細を簡単に記述する。低温の雨雲の中は0℃以下になっている部分があるものの、雨雲の中の水は「過冷却水」という形で存在している。この過冷却水の状態では非常に微細な水滴のままであり、重力で地面に引っ張られるまでに至らないので降雪には至らない。これが降雪になるまでには、雪の固まりとして雲の中で成長して、重力で地面に引っ張られるまでになることが必要である。よって、雪片の成長を促すために、ヨウ化銀等を雨雲の中に人工的に注入する。ヨウ化銀はその形状が雪の結晶に似ているために、ヨウ化銀自体が雪辺を作るための種となり、その種を中心として雪片が雨雲の中で成長するというものだ。
当該実験ではある程度の成功の成果を残し、今後の課題も明らかになっている。今後は高度なコンピューターモデルを使用して、さまざまな条件下での人工降雨(降雪)をより正確に定量化することに焦点を当てていくそうだ。
人工降雪への期待:天気へのニーズ
この人工降雨(降雪)の技術は、干ばつへの対策として期待されている。干ばつへの有効な対策となりうる理由は、人工降雨(降雪)に掛かるコストが安いためだ。本技術は、雨雲に接近するための航空機、ヨウ化銀等の物質があれば使用することができる。この技術が世界中の干ばつを救う日も近いかもしれない。
想像に難くないが、この「天気」に関するニーズは現代も根強いものがある。筆者たちのグループでもTwitterによる調査を行った結果、その強いニーズの兆候を掴んでいる。
そしてこれまではこの「天気」に関するニーズは、技術で叶えられる未来が想像されていなかった。今後は技術の進歩で、これまで技術上不可能と思われていたニーズへの対応が、どんどん可能になっていくミライになっていくであろう。
新技術とアカウンタビリティ(説明責任)
一方で、このように感じた方もいるのではないだろうか?「天気を人間がコントロールして大丈夫だろうか?」と。何が不安とうまく説明はできないものの、何となく罰が当たるのでは?空から化学物質が降ってきて大丈夫か?といった不安ではないだろうか?私自身も、そのように感じた1人だ。
今後も新しい技術の到来とともに、同様の不安が市民を襲うことだろう。これに対応するために、技術を扱う今後の企業等にはより「アカウンタビリティ(説明責任)」が求められると私は考えている。新しい技術のメリット・デメリットをエビデンスから見える化し、それを分かりやすく一般市民に説明していく責任のことだ。これまでもメリット・デメリットの見える化は企業内部で確実に行われていたと思うが、今後より大切なのは「一般市民に分かりやすく説明すること」ではないだろうか。なぜなら、わかりやすい説明に納得しないと、新しい技術が浸透していかないからだ。アカウンタビリティの重要性は、新型コロナに対する政府等の対応で実感しているのではないだろうか。
新しい技術と今後セットになるアカウンタビリティ、このアカウンタビリティを強化するための人文系の知にも継続して注目したいものだ。
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