筆者:本日はハヤシさんと対談させていただきます、よろしくお願いします。
ハヤシ:よろしくお願いします。
ITの世界は広くて深い
筆者:本日のテーマは「IT企業に入る社員が知っておくべきIT基礎知識とは?」です。このテーマは私から投げかけさせてもらいましたが、ズバリ結論はどうでしょう?
ハヤシ:うーん、この話を聞いて、最初に感じたのがズバッと答えることが難しいということです。ITと呼ばれる世界は、広く深いのです。海を例にして考えてみて下さい。あなたは海にいる1匹の鮭だとしましょう。その鮭が海の全体像を把握することは不可能に近い。これは立場の違いがあっても(あなたが漁師だろうがマグロだろうが)同じことだと考えています。一参加者が全体像を掴んでそれを語るなんてことは、到底できない世界なんですね。
筆者:なるほど、期待していた答えとは違いました(笑)。
ハヤシ:ではそんな捉えがたいITを捉えるために、身近な例で考えてみましょう。スマホ、検索エンジン、自動運転技術搭載の乗用車、工場で動く工作機械、これらはほんの一例ですが、身の回りにあるあらゆるものにITが関連しています。
筆者:この話を聞いて、日常生活の全てがITに関連しているのではないかと思ってしまいました。逆に、この現代において、ITが関連していないことはありますか?
ハヤシ:そうですね、産業の分野を考えたときに、「アート」の世界は少し違うかもしれません。なぜなら芸術の世界は、「効率性」に価値を見出しているわけではないからですね。
筆者:なるほど、分かりやすいです!「効率性」を考えている場合には、日常生活のあらゆるところに出てくるわけですね。
ITでは電気信号のON/OFFで情報を伝える
ハヤシ:では改めて、ITとは何かを考えてみましょう。言葉の定義を考えてみます。ITとはInformation Technologyの略ですね。つまり、情報×技術の総称をITと呼びます。
筆者:キーワードは、当たり前ですが「情報」ですね。
ハヤシ:そうです、情報。情報のやり取り、古くは煙を使って情報のやり取りをしてた「のろし」を知っていますか?戦国時代の情報のやり取りの手段の1つですが、合戦の場で遠方にいる仲間に情報を伝えるために、薪を炊いて煙のON/OFFで情報を伝えていました。
筆者:のろし、私も知っています。昔から情報のやり取りが必須だったわけですね。私たちが日常取り組む「仕事」も、いわば情報のやり取りですもんね。
ハヤシ:その通りですね。そして現代、情報のやり取りを伝達する手段が「電気信号のON/OFF」に変わってきました。例えば、「ある電気信号がONなら、信号機の表示灯を赤に切り替える」などです。この例では電気信号のON/OFFが自動車や歩行者に止まれというメッセージを伝えます。これによって交通の秩序が保たれるという、実世界での価値につながるわけです。このように情報を電気信号のON/OFFで表現することで、様々なことが可能になりました。
ITの工程:入力・処理・出力
ハヤシ:では情報の処理を少しかみ砕いて見てみましょう。情報のやり取りを大きくブレイクダウンすると、①入力②処理③出力の3つの流れから構成されます。コンビニでアイスを買う場面を想定してみましょう。また、最近の流れに乗って、スマホ決済を使ってコンビニでアイスを買うとしましょう。レジにアイスを持って行ってスマホをかざしたらすぐにアイスを買うことができるわけですが、この数秒の間には実はいろいろなことが起こっているのです。
筆者:いろいろなこと、ですね。
ハヤシ:そうです。行われているのは①入力②処理③出力ということになります。まずは、①の入力。ここでは購買者のスマホから様々な情報がレジ側に送信されます。例えばキャッシュレスアプリ内の残高の情報や購買店舗など、これはモノを買うためには処理すべき必須の情報であるわけです。その後は②「処理」。つまりお金が足りているかを確認すること、残高を減らす処理、また何かのキャンペーンに該当していないかの確認等の処理がなされることになります。そして最後に③「出力」。購買者に買い物が終わったということを知らせたのちに、レシートが出てくるわけです。大変ざっくりとした説明ですが。これら①~③の工程が、全て電気信号のON/OFFを通じて行われるということなのです。
筆者:よくわかりました。これら3つに分けられた①「入力」②「処理」③「出力」の技術的負荷は同じぐらいなのですか?
ハヤシ:うーん、難しい質問ですね。これらの技術的負荷は同じではありません。また、①~③のうちどの工程がすごい等の区別はないのです。①~③それぞれに職人芸があるわけですね。例えばコンビニでおじいさんがスマホ決済をすることを考えてみましょう。そのためには、入力、つまり使いやすい・分かりやすいデザインでおじいさんを案内してあげる必要があるのです。使いやすい・分かりやすいスマホの操作画面、これ一つを実現するだけでも前提となるノウハウや技術が多々あり、プロが存在しているんです。
筆者:例が分かりやすかったです。これまでのイメージでは、②「処理」が花形で、ここに技術が集中していると考えていました。技術的負荷は違えど、入力や出力も非常に大切ということですね。
ハヤシ:そしてこの①「入力」②「処理」③「出力」の3つ、それぞれ様々な形態があります。①の「入力」には、分かりやすい文字列だけではなく、音声情報や人の体温などの熱情報などもあります。そしてこれらを②「処理」するプロセス、ここでは入力を電気信号のON/OFFで表せるようにする必要があります。そのためにデジタル化等の処理が必要になります。そして③の「出力」として、目的の情報を出力するわけです。これら①~③の全てにそれぞれの技術が必要になります。
筆者:確かに広くて深いことがよく分かりました。
要求内容が異なってくるIT知識
ハヤシ:また、先ほどの①「入力」②「処理」③「出力」の分類以外の目線でもITは分類できるのです。それが例えば「業界」「職種」「技術領域」「職位」などです。例えば職位を1つ取ってみても、イチ一般社員と部長レベルでは仕事をする上で求められる能力や知識が異なります。だからこそ、誰でも知っておくべきITの知識というのは非常に難しく、必要な知識は人それぞれなのです。
筆者:では、IT企業に新入社員として入った場合、どのようにして知識を身に付けておくべきなのでしょうか?
ハヤシ:やはり大切なのは、まず業界を学ぶことなのではないでしょうか?なぜなら業界によって必要な知識が異なってくるからです。まずは業界を学び、業界の全体感を掴む、その過程で何度も見かけるキーワード等がきっと出てきます。これこそがあなたが習得すべき知識になるのではないでしょうか?これで情報化が進んだ現代でビジネスをするのであれば、そのなかにITに関連する概念も当然含まれてくるはずです。
筆者:そうですね、納得です。
ITは特効薬ではない
ハヤシ:ただし気をつけていただきたいのは、「ITは特効薬ではない」ということです。腕のいいエンジニアの方にありがちですが、解くべき問題を何でもITで片付けられないかと考えてしまいがちです。しかし、そもそも「その仕事は本当に必要なのか?」と一歩引いてよく考える必要があります。なぜなら不要な仕事そのものをなくせば、その仕事に対してITの応用を考える必要もなくなるからです。このようにして業務の目的を考えて、一歩引いた視点を持つことが大切ですね。
筆者:とても納得が行きました。ITはあくまで道具で、その業務の「目的」にフォーカスしたときにIT以外の視点を持つことができるように、論理的に考える力などIT以外の知識も身に付けることが大切だということですね。
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